「細尾」は元禄元年(1688年)、本願寺より「細尾」の苗字を受け、京都・西陣において創業しました。西陣とは京都の旧市街に位置する地域の呼称で、その地域で生産される先染の織物が「西陣織」と呼ばれます。「西陣織」は古都・京都で約1200年前より、貴族や武士階級、さらには裕福な町人達の支持を受けながら、育まれてきました。完成までに必要な20以上もの工程それぞれを一人の職人が担当するという高度な分業によって、圧倒的な美を追求し、類稀なる職人技を継承してきました。

「細尾」は西陣の織屋としての歴史を重ねる一方、1923年、9代目当主・細尾徳次郎によって帯・きものの卸売業を始めました。全国の産地を巡り、日本に受け継がれる染織のすばらしさや、真摯に染織を続けている職人たちのものづくりのこころを人々に届けることを目指しています。

以来、織屋と問屋の両輪で事業を営んできました。世界に誇る「西陣織」の高い技術と芸術性を掲げ、その可能性を深め広げること、また、きもの問屋として日本各地の伝統的染織文化を紹介し、きもの文化を未来につなげていくこと、この二つを使命としています。

豊かな質を持った物を生み出す。そのために「細尾」が重視しているのが、異なる専門性を持った職人達、技術者達による協業です。完成までに必要な20以上もの工程それぞれを一人の職人が担当する、「西陣織」の高度な分業を、より現代的な形で展開しています。

2010年には、世界のテキスタイルの標準幅である150cm幅の「西陣織」を織ることができる織機を独自に開発し、以来、世界のマーケットに向けて革新的なテキスタイルを提供してきました。インテリア、ファッション、アート、サイエンス、テクノロジーなど、きものや帯を超えた様々な分野との協業によって、新しい物づくり=価値づくりへと取り組んでいます。

「細尾」は、「西陣織」の技術を時代を越えてつなぐだけでなく、日本各地で営まれている染織の間のつながりを把握し、多くの人に伝えてゆきたいと考えています。

北海道から沖縄まで、その土地ならではの歴史や風土が育む染織文化を取材、記録し、これまでに撮影した写真は、2万点にもおよびます。このような活動を通じて収集した全国の染織文化の情報を、ギャラリーでの展覧会などを通じて、広く社会に発信しています。

また「細尾」が問屋として中心的に扱っているのは、重要無形文化財保持者、通称「人間国宝」の作品です。まさに国の宝というべき技と、妥協を許さない美への探究心から生み出される作品の数々は、私たちに感動を与え、生活を豊かに彩ってくれます。最上級のきものの紹介と販売を通じて、きもの文化の豊かさを、実感とともに伝えることができると考えています。

全国のきもの・染織について「細尾」が情報発信を行う目的は、それぞれの土地に息づく工芸の精神に光を当てることで、これまで見落とされてきた、染織文化の水平的なつながりを可視化することです。それを多くの人と共有し、次世代へと継承していくことで、未来の工芸を醸成することを意図しています。

細部のテクスチャーや触感を通じて、物は生活を彩り、人に働きかけ、情操を豊かにします。美しいきものを身につけると気持ちが晴れやかになるように、実用的な機能を持ちながらも、それだけにとどまらない精神的な力が、工芸には秘められています。しかし工芸は、規格化された製品の大量生産、大量消費を伴なう20世紀型の資本主義社会では、手間のかかる古い技術として、弱い立場に置かれてきました。

従来の社会の仕組みが行き詰まっている今、「細尾」は、工芸の力に立ち返り、物の質を通じて、人間生活の基盤を再構築してゆきたいと考えています。工芸によって、時代を越えて人の生を支え、過去、現在、未来をつないでゆく。それが「細尾」の哲学です。

Photos by Mitsumasa Fujitsuka

HOSOO FLAGSHIP STORE

本社社屋として必要とされる用途・機能とともに、旗艦店やギャラリーを兼ね備えた工芸文化の発信拠点にふさわしい、物としてのテクスチャーを持つ建築を考えました。

京都の旧市街に位置し、伝統的な景観が期待される街区に立地しています。外観には墨漆喰や金箔、版築塀といった、京都において伝統的に使われてきた、質感を持ったマテリアルを用いることによって、歴史の継承を表現したいと考えました。金箔は変わることなく輝きを保ち続ける一方で、墨漆喰は、経年によって退色してゆく。その落差として、歳月がつくり出す表情が外壁に現れるよう試みています。

施工は、特定の建設会社に一括で委託するのではなく、個々の専門技術を持った様々な職人達を束ね、自前に施工チームを編成しました。一つひとつのもののつくり方を問い直し、異なるものづくりの回路と接続させることで、新しい制作の地平を開くことに主眼を置いています。このような設計思想は、人々の眼差しが生産の結果としての「製品」にしか注がれず、生産の過程や技術がブラックボックス化し、ものづくりの可能性が狭められてしまっている現代に対する、批評的態度でもあります。

この建築では、「西陣織」とFRPの最先端技術によって開発された、光を透過する西陣織FRPガラス「NISHIJIN reflected」をはじめ、「西陣織」から左官、鍛冶、箔貼、ウィルトンカーペット、表具、家具に至るまで、多様な工芸技術がつながり合い、一つの場において連帯しています。工芸としての建築は、「細尾」の哲学が具現化したものです。

HOSOO RESIDENCE

「HOSOO RESIDENCE」は、2017年より完全会員制として運営する宿泊施設です。京都の旧市街である御所南エリアの、閑静な路地奥に佇んでいます。建物は、戦前から残る京町家をフルリノベーションしたもので、外観は伝統的な町家の意匠を遵守、内装は西陣織や伝統的な左官技術による土壁で現代的に仕上げられた、贅沢な工芸建築です。

古来から連なる美しい陰影の伝統を宿しながら、滞在者をやさしく包み込むような空間は、「HOSOO RESIDENCE」のためだけに作られたインテリアや、厳選されたプロダクトで彩られています。実際に滞在し体感することで、人々の手が年月をかけて培った物の質とその豊かさを感じていただけます。

GO ON

「GO ON」は、2012年より続く、京都を拠点に伝統工芸を受け継ぐ6名が、その活性化を目的に活動するプロジェクトユニットです。工芸を軸とし、アート、デザイン、サイエンス、テクノロジーなど、幅広いジャンルと接点をつくり、相互の橋渡しとなるプロジェクトを展開しながら、伝統工芸のさらなる可能性を探っています。伝統的に継承されてきた特色ある素材、技、製造工程を、最先端のテクノロジーと結び付けることで、かつてない創造の可能性を喚起します。未来を構想し、具体化してゆく活動を通して、これからの時代の豊かさを考え続けています。